昨今、気候変動は世界的な問題になっており、直近ではオーストラリアの森林火災が生態系や人の生活環境に深刻なダメージを与えています。これに関して科学者の間で、地球の平均気温が産業革命以降から換算して摂氏3°上昇した世界ではオーストラリア見られるような大規模火災は常態化すると言われています。

日本でも昨年は台風災害が頻発しました。これは気温上昇によって、今までなら赤道近くで発生して日本に到達するときには縮小していた台風が、本土に到達してもなお勢力を維持するようになったことが原因と推測されています。

こうした状況から、昨年のGreta Thunberg氏を中心とする若者から始まった気候変動マーチなど、市民レベルでも問題を解決しなければならないという動きが広がっています。

このように気候変動が世界的な問題となる中で、その原因の一つとして畜産業も槍玉に挙げられています。それに関する科学的議論を紹介する前に、まず温室効果ガスと気候変動の関係について紹介します。

温室効果ガスと気候変動

まずはじめに、気温上昇の原因は人間活動の技術的発展による温室効果ガス排出量の増加であることは近年の研究でほとんど自明のものとなっています。温室効果ガスは太陽からの熱エネルギーを透過する性質がありますが、同時に地球から反射する熱エネルギーである赤外線を吸収し、再び地球表面に戻してしまう性質があります。

本来ならそれが地球を保温する効果を持ち、生物が生存可能な環境を維持しますが、多くなりすぎると地球に過剰に熱を溜め込んでしまいます。現在では人間の産業活動における化石燃料利用が温室効果ガスの増大を引き起こしていると言われており、科学研究においてもそれは証明されています。

畜産の温室効果ガス排出

ただ温室効果ガス増加の原因は、化石燃料だけではありません。そこで化石燃料以外の温室効果ガス排出の原因になっているものの一つとして、家畜動物の生命活動および、それらを育てるための森林資源の消費や破壊があります。畜産業において主に飼料生産の過程で化石燃料利用が行われますが、化石燃料が関わらないところでも温室効果ガスを多く排出しています。

この点で畜産業における温室効果ガス排出は、化石燃料を他のエネルギー資源に変えることで解決するものではありません。そのため畜産産業は石油産業とは独立した温室効果ガス排出の原因の一つとして挙げることができます。

Photo by Leon Ephraïm on Unsplash

実際、畜産業はどれくらい温室効果ガスを排出しているのでしょうか。それに関してFAO(国連食糧農業機関)が調査しており、その報告によると畜産業に関連する温室効果ガス排出量は、あらゆる産業を合算した全温室効果ガス全体の14.5%に及ぶと推測されています(Gerber et al., 2013)。

この数字はライフサイクルアセスメントという、製品が生産段階から流通、消費者までに届く過程における環境負荷を定量的に評価する手法によって算出されています。14.5%という数字は現在世界的にゼロ炭素社会を目指す潮流において、無視できない影響度を持っていると考えられます。

こうした調査報告は、FAOだけではなくIPCC(気候変動に関する政府カンパネル)も妥当性評価をしたものを公開しています。また時代を遡るとFAO(国連食糧農業機関)が2006年に公開した「Livestock’s long shadow: environmental issues and options」という報告書は、欧米を中心にセンセーショナルに取り上げられ、ヴィーガニズム運動の拡大に大きな影響をもたらしました。

今後の記事では畜産と気候変動の関連で、現在の学術研究における様々な議論を紹介していきたいと思います。


参考文献

Lal, R. (2004). Soil carbon sequestration impacts on global climate change and food security. science, 304(5677), 1623-1627.

Gerber, P. J., Steinfeld, H., Henderson, B., Mottet, A., Opio, C., Dijkman, J., … & Tempio, G. (2013). Tackling climate change through livestock: a global assessment of emissions and mitigation opportunities. Food and Agriculture Organization of the United Nations (FAO).

FAO, Steinfeld, H., Gerber, P., Wassenaar, T. D., Castel, V., Rosales, M., Rosales, M., & de Haan, C. (2006). Livestock’s long shadow: environmental issues and options. Food & Agriculture Org.

IPCC (Intergovermental Panel on Climate Change), 2014. Climate Change 2014: impacts, adaptation, and vulnerability. part A: global and sectoral aspects.In: Field, C.B., Barros, V.R., Dokken, D.J., Mach, K.J., Mastrandrea, M.D., Bilir, T.E., Chatterjee, M., Ebi, K.L., Estrada, Y.O., Genova, R.C., Girma, B., Kissel, E.S.,Levy, A.N., MacCracken, S., Mastrandrea, P.R., White, L.L. (Eds.), Contribution of Working Group II to the Fifth Assessment Report of theIntergovernmental Panel on Climate Change. Cambridge University Press, Cambridge, United Kingdom and New York, NY, USA, p. 1132.

Published On: 2020/03/04

ニュースレターに登録

* 必須項目です

https://vegeproject.org/
https://vegemap.org/
https://vegeproject.org/tokyovegemap_kyotovegemap/
https://store.md-holdings.com/pages/kenkoukan/