菜食と寿命

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ベジタリアンという生活が、健康なのか不健康なのか。気になる人もいれば、根拠もなく決めつけている人もいると思います。今回は、NHK出版あしたの生活の記事より、面白い記事があったので紹介します。

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(ゆるゆるながら)菜食を実践しているというと、よく言われるのが「それでは不健康だ」という反応だ。

充分な栄養を摂れずに早晩体を壊す、というもの。一般に菜食は健康のために実践することが多いのだとすると、これでは180度逆のことを言われたことになる。そう考えると、現代社会においてこれだけ一般通念が二分するテーマもそうそうないのではないだろうか? 時に菜食が「宗教」だと言われる所以も、ここらへんにある。

栄養学的に見る限り、きちんと考えられた菜食は雑食と遜色ないとされている。アメリカの栄養士会のコメントはこうだ。「適切に計画された菜食は、ベジタリアンであれヴィーガンであれ、健康的で栄養も充分に摂取でき、ある種の病気の予防や治療に役立つ。よく考えられた菜食は、あらゆる年齢層の人々──すなわち、妊娠中の女性や授乳期の赤ちゃん、幼児、子ども、青少年──それにアスリートにも適している」

ここでポイントになるのは「適切に計画された」の部分。菜食におけるネガティブなデータのほとんどは、つまるところ、よく知られたビタミン12の不足だったり、鉄分やビタミンDなど菜食者が意識して摂らなければいけない栄養素の不足に由来する。きちんと自分の食を意識せずに形だけ菜食を取り入れるのが危険なのはその通りで、もう少し詳しく知りたければ、たとえば僕がいつも通っているヴィーガンレストランULTRA LUNCHのドミンゴさんのこのポストも参照されるといい。

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でも巷でいう「菜食は不健康」というのは、もっと経験論的で、だから人間の感情や直感に沿ったところから発せられているようだ(だからこそ侮れない)。「何にせよ、常態的に食事を制限するのはよくない」「100歳を超えて長生きする人は皆、肉を食べている」「菜食の人は寿命が短い」ということを、僕も言われたことがある。

残念ながら(というか当然ながら)、僕にはその真偽のほどは分からない。科学的なハードデータも、上記を裏付けるものから反証するものまで、様々なものが乱れ飛んでいるのが現状だ(やはり文化的にも、英語圏の論文データはネットでもたくさん見つかる)。長寿の人はみな肉を食べている、という説については、ネットでよく引用されているコロラド大学の有名な研究があって、調査した100歳以上の長寿の人はすべて肉を食べていて、ベジタリアンは一人もいなかったのだという。日本でもあの日野原先生を見れば、さもありなんと思えるはずだ。

でもこうした「長寿の人の習慣はいい習慣だ」論法を採用すると、100歳を超えた喫煙者を例にあげて、「煙草は長生きにいい」という論も成り立ってしまう。お酒もしかり。けっきょく、肉や煙草や酒をたしなむから長寿になったのではなく、歳をとっても健康でいられらたからこそ、いまだに肉や煙草や酒をたしなめるのだ、と考えたほうが分かりやすいのではないだろうか。先ほどのコロラド大学の研究でも、よくネグられている続きがあって、この長寿の人の85%が100歳でも仕事をしていて、75%が毎日ウイスキーを飲んでいたそうだ(そしてついでに言えば、もちろん現実にはベジタリアンのオーバー100はたくさんいる)。

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日本だとよく粗食が健康に良いと言われ、一汁一菜が長寿の秘訣、昔の日本人の食事に戻れば健康になる、ということが言われる(西欧人にとっての地中海式ダイエットと同じベクトルだ)。それに対して、西欧食を取り入れる前の昔の日本人の寿命は今より短かった(日本の平均寿命が50歳を超えたのは戦後)、という単純な事実を指摘することもできるだろう。もちろん、平均寿命と平均余命のトリックもあるし、食生活だけでなく衛生環境や医療の改善が寿命とは密接に関連するからこれも単純な比較はできないのだけれど。

ただ、ある種の病気・疾患と菜食の関係に限って言えば、菜食がそれらの病気を予防し、死亡率を下げるというデータはいくつも出ている。最近、身近に大腸がんを患った人がいて、いろいろと本を漁り情報にあたる機会があった。かつてはマイナーだった大腸がんも、今では日本人の罹患数の第二位、女性では死亡数がもっとも多い癌になっている。そして大腸がんと西欧的食生活(肉食やコレステロール過多)は有意な相関関係にあることも科学的に分かっている。つまり、端的に言ってしまえば、今のような肉食のスタイルは日本人の腸に合っていないようなのだ。

もちろん、肉を食べて長生きできるようになったからこそ癌を発症するようになった(昔は癌に罹る前に早くして死んでいただけ)という論法も成り立つのだろうし、今の肉食生活が合っていないことと、完全菜食になることの間には、まだまだ大きな隔たりがある。けっきょくのところ、「たまに美味しいお肉をちょとだけ」が、一番ありきたりで順当な結論になるのかもしれない。僕がゆるいベジタリアンであることを知っていながら、たまに「お肉をがっつり食べにいこう!」とグルメで肉々しいレストランにさそってくれる友人がいて、もしかしたら僕の健康をさりげなく気遣ってくれているのかもしれない。

でも、癌の統合医療系の本を紐解くと、予防食として挙げられているリストに肉類は一切入っていない(魚介類は入っている)。それは何を意味するのだろうか? もちろん人間は、癌にならないことを目的に生きているわけではない。癌になりたくないからと肉を食べないのは、車に轢かれたくないから家から一歩も出ない、というのと同じことかもしれない。でも、こと国民病と言われる癌について言えば、バランスシートの資産の欄には菜食メニューが、負債の欄には肉食メニューが、きっちりと分かれて記載されているのは確かなのだ。

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今回、僕が熟読した『がんに効く生活』によれば、癌の発症において遺伝による要因は一般に思われている以上に限定的で、それよりもその人の食事や日々のストレス、運動といった要因が大きく関係している(そういうアプローチを統合医療という)。つまりライフスタイルそのものが問題なのだ。それはちょうど、狭義のスポーツというよりもライフスタイルとしてトレイルランニングを考える最近のカルチャーとも、不思議と共鳴しているように思う。そして、その両者ともに、隣りには菜食がにっこりと笑顔で手を繋いで立っているのだ。

本書は世界中でベストセラーとなった1冊。がん患者はもちろんだけれど、そうではない健康な人々にもぜひ読んでいただきたい。

著者:松島倫明(まつしま・みちあき)

NHK出版 編集局放送・学芸図書編集部チーフエディター 翻訳書の版権取得・編集・プロモーションに従事。ノンフィクションから小説までを幅広く手がけている。代表的なタイトルにアンダーソン『MAKERS』『フリー』、ヴォネガット『国のない男』、フォア『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』など。『脳を鍛えるには運動しかない!』という本を編集してからは、贅肉をとるためでなくポジティブに走るようになり、『BORN TO RUN』を編集して以来、裸足系シューズやサンダルで走るサブ4ランナーです。ジュレク の『EAT&RUN』の編集中に完全菜食主義の生活を3か月間体験し、メキシコ・コッパーキャニオンのUMCB(80km)でウルトラレース初完走しました。

 

Source: あしたの生活

Posted by Vegemon

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